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シャボン玉日記 4


8月9日
 全国高専体育大会に陸上部を引率するため、8月7日〜9日まで千葉に出かけた。 その折角の機会なので、空き時間に東京上野公園の国立科学博物館と北の丸公園の科学技術館を訪れた。 7日に科学博物館、9日に科学技術館に行ったのだが、夏休みということもあって子供たちで随分にぎわっていた。 科学博物館では「大恐竜展」とともに「夏休みサイエンススクエア」と銘打って電気学会や機械学会も協力した実験講座も開かれていた。
 しかし、私の狙いはもちろん科学技術館の「でっかいシャボン玉」である。 というわけで、特別版としてここに紹介しよう。

 地下鉄東西線竹橋駅から徒歩約5分。 地上6階、地下1階の白い建物である。 初めてだったので、とりあえず順番に見学する。 2階は原子力と自転車(どういう組み合わせなんだ?)、3階は電気関係と自動車、4階は化学、エネルギー、建設など、5階にメカや光学関連の装置が展示されている。 いずれも面白いのだが、過度な説明はなく自分たちで不思議を体験して考えてもらおうという姿勢が垣間見られた。
 また、いくつかの会場では演示実験も定期的になされており、私は放射能、燃焼、超低温の3つを見た。 特に老練の学芸員の方はさすがに手馴れていて、子供たちをひきつける言葉、考えさせる問いかけなど、勉強になった。 このあたりの技を高専での科学体験でも取り入れられればなあ、と思いつつ聞かせていただいた。

 さて、めざすシャボン玉は5階のワークスと名づけられた部屋にある。 ここは半分くらいを試作室が占めていて、一見さまざまなガラクタが集められているような印象である。 もちろん実際におかれているのは不要品ではなく、ここでは展示物の研究開発や試作がなされているそうだ。 こういう場所を見るのもいいものだと思うが、見学者たちの関心はほとんどここには向いていない。 何しろワークスの部屋に入るとすぐに目に付くのがそれこそ"でっかい「でっかいシャボン玉」製造装置"なのである。
 科学技術館のホームページにある写真を見れば様子はよくわかる。 直径約1.5m、幅約20cmのドーナッツ状プールにシャボン玉液が入っていて、そこに布を巻いたフラフープが浸してある。 同じく布を巻いたフラフープが同じ直径の金属製リングに取り付けられていて、これもシャボン玉液に浸される。 リングには取っ手がついていてそばに立っている2本の支柱とつなげられ、上下にスライドできるようになっている。 また、取っ手からはワイヤーが上に伸びていて、装置の上を経由しておもりにつながっている。 そして、片方の取っ手を持ち上げるとフラフープが上に上がって液面との間に円筒状のシャボン玉ができるというわけだ。 おもりがついている分、軽くて子供の力でも持ち上げられるようになっている。
 私たちのほうがこれを真似たのだから似ていて当たり前だが、基本的に同じである。 問題は何が違っているのか、ということである。

 まず、液の性質から。 触ってみた感じは私たちのよりもかなりさらさらしていて粘り気が少ない。 装置に仕込んでどのくらい経っているのかわからないが、あまり泡立ちもない。 そのくせシャボン玉が割れたときに飛び散る液が妙に固まっていて白っぽいのだ。 さらに、はじけた後、フラフープからほとんど液が垂れてこない。
 どうやら、液の組成はかなり違うようだ。 そばに大きなシャボン玉の作り方を書いた本(書名、出版社名などメモするのを忘れた。確か科学技術館の監修だったと思うのだが……。)があったので開いてみると、洗剤と洗濯糊と水の比が1:5:6となっていた。 おそらくここで使っている液も同じ割合だと思われる。 これは私たちが試してうまくいった比率3:10:20(1:3.3:6.7)に比べて洗濯糊の割合が多い。 7月10日につくって薄すぎたと思われる液の組成は1:5:9.3〜10であり、7月13日に濃すぎると見えた液は1:5:5〜6.7であった。 つまり、科学技術館のシャボン玉は7月13日バージョンに近いことになる。 確かに濃い目の液を使った場合、はじけて飛び散った液は固まっていたので、その点は一致している。 でも、もっと粘性が高かったように思えるのだが……。
 組成の問題はシャボン玉の安定性に直接影響する。 ここのは平気で10秒くらいもつ。 まだまだ、私たちのは甘い。

 装置について言えば、金がかかっているなあ、というのがうらやましさ半分の率直な印象である。 とても真似はできないが、見栄えが悪い程度だからよいだろう。 気がついたのは、シャボン玉プールの中にもフラフープが沈めてあること。 液量が少なくてフラフープが液面より上に出ているときはそこから膜が張るということなのだろうか。 つまり、プールの縁に膜がくっついていかない。 これは試してみてもいいかもしれない。
 また、装置の上は屋根がついている。 これもそばにあった本に書かれていたことだが、手作りでする場合でも発泡スチロールか何かでシャボン玉膜の上にふたをしてやるのがよいとされている。 なぜだろう。 シャボン玉がくびれようとするのを、内部の圧力を下がらないようにして防いでいるのだろうか。 でも、実際には膜の中心付近がかなりくびれてきて、小さな子供がしゃがんだりしていると、くびれがくっついてシャボン玉の半球に閉じ込められるんじゃないかと思うほどだった。 もし、なかったらもっと激しく縮むのだろうか。 私たちの装置は、たまたま天井がふた代わりをしていてうまくいっているのかもしれない。

 もうひとつ、これはその場では気がつかなかったのだが、飛び散った液などで足を滑らせて転ぶ子供がいなかった点である。 洗剤を使うのでどうしても滑りやすくなってしまうのだけれど、どう工夫をしていたのだろう。 まさか液の配合で滑らないようにはできないだろう。 液が垂れにくいようなので、元々床に液が飛び散らないようになっているようだ。 なにより、液が飛び散りそうな範囲の床の素材が決め手なのだろう。 写真でわかるように緑色をした足拭きマットのようなものを敷いているようだ。 当然のことながら、安全ということを念頭において作られていることがわかる。

 さて、これとは別にヤング・アインシュタイン&エジソン・スクールというイベントでの優秀作品というのが展示されていた。 これは日本科学技術振興財団と朝日新聞が主催しておこなわれたもので、小中学生を対象に科学や技術に関する作文、工作、研究その他に関する作品を受け付け、審査に通った生徒を研究所見学や講演、体験実習させるというもの。 その応募作品の中の入賞作品が週代わりで展示されているのだ。 特に目を引いたのが「割れ目の規則性の研究 ― 地面にできる割れ目とメロンの網目は、同じものか」という研究である。 ここではこれ以上語らないが、中学生の発想かと思うと(根が素直なもので……)なかなか感動的でさえあった。
 で、同じような研究の中にシャボン玉のもあったわけだ。 「大きなシャボン玉をつくるには」というようなタイトルだった。 黒い紙の上でストローを使って半球状にシャボン玉を膨らませて、はじけたときの直径を記録していき、一番大きなシャボン玉ができる液の組成を調べようというもの。 これも中学生の研究である。 まず、水と洗剤だけでその組成や洗剤の種類を変えて比べてみる。 次に一番大きなシャボン玉ができた液に洗濯糊を加えてみる。 あるいは、砂糖や塩を足してみる。 とまあ、いろんなことを試しているのだ。 結果的には、ある洗剤を使うと洗濯糊だけで十分大きなシャボン玉ができるが、別の洗剤では洗濯糊のうえに塩(あるいは何かもうひとつあったのだが、忘れた)を加えるとよいという。
 なかなか大変なエネルギーを費やしている。 私の子供のときとはまったく違う。 まったく頭が下がる思いでさえある。

 こうして、科学技術館見学を終えた。 初めてだったということもあるが、優に4時間以上楽しめた。 国立科学博物館とあわせると7時間近くも居たことになる。 子供の頃からこういう施設でいろんな体験をすることは、自然と接して出会う感動とはまた違った刺激になるのだろう。 今の時代、両方ともが非常に大切なんじゃないかという気がした。

8月10日
 千葉から帰ってきて気になったことがあった。 それは液の組成である。 私たちが今一番自信を持っているのが洗剤:洗濯糊:水=1:3.3:6.7なのに、科学技術館では1:5:6であるらしい。 この差は何で、どちらの方がよいのだろうか。
 おそらく各地で巨大シャボン玉づくりが試されているに違いなく、いろんな工夫がされているはずである。 それを調べれば、参考になるかもしれない。

 以前、理科教育MLで私のホームページを紹介したときに、いくつか他の方からも情報をいただいた。 大阪市立科学館のTさんからは、洗剤:洗濯糊:水:グリセリン=1:4:5:0.4がよく、これなら成功率90%以上だとか。 (でも、ホームページにあるシャボン玉液の作り方をみると、1:4:10:0.4となっている。) また、徳山市立須磨小学校のHさんは、洗剤:洗濯糊:水=1:6:9でうまくいっているとのこと。
 きっと、まだ他にもあるに違いない。 そこでインターネットで検索してみることにした。 gooで「巨大シャボン玉」あるいは「大きなシャボン玉」をキーワードにサーチしてみたところ、たくさんのホームページが見つかった。 これらを当たって組成をピックアップしてみた。 すると、MLでいただいたのも含めて次のような結果になった。

1) 科学技術館の組成1:5:6に近いもの
  1:4:5 じゃんの部屋
2) 科学技術館より水の割合が大きいもの
  1:5:7〜9 理科おもしろ実験
  1:5〜6:7〜9 今岡家の子育てフォーラム
  1:5:8〜10 NHKエデュケーショナルサイエンスのやってみようなんでも実験
  1:5:10 法則化理科研究会
  1:5:10 旭川市青少年科学館
  1:5:10 三本松高校の土曜公開実験
  1:6:9 徳山市立須磨小学校
3) 科学技術館より洗濯糊と水の割合が大きいもの
  1:20:20 学生の広場〜土管のある空地
4) 科学技術館より洗濯糊と水の割合が小さいもの
  1:1:2 なるほどの森
  3:6:10(1:2:3.3) 啓子のケミカル実験
5) 科学技術館の組成にグリセリンを加えたもの
  1:4:5:0.4 or 1:4:10:0.4 大阪市立科学館

 1)と2)は連続的に変わっているので、どこで分けるというわけにはいかないが、2)がもっとも多い。 私たちの液はどれにも分類されない。 もちろん、どれもこれもが十分検討された上で決定された組成とは限らない。 NHKのがいつ公開されたかわからないが、実験自体は95年のものでかなり古いからインターネットで情報収集した結果、2)に集中したとも考えられる。 いずれ時間があれば、これらのデータを元に再検討してみてもいいだろう。


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